最大で約20℃も低下※1川崎フロンターレアカデミーチームの快挙を気化熱によりグラウンドの温度を下げる冷却ミスト装置がサポート

クラブユース決勝進出はU-18/U-15生田ともに初、U-15生田は日本一の栄誉を獲得

スポーツ施設の設計・施工・管理を専門とする、日本体育施設株式会社(東京都中野区 代表取締役社長:越後幸太郎)(以下、NTS)が開発した、気化熱によりグラウンドの温度を下げる冷却ミスト装置がグラウンドの「暑熱問題」を改善し、「日本クラブユース選手権」におけるJリーグ 川崎フロンターレU-18と川崎フロンターレU-15生田の決勝進出と、U-15生田の初優勝に貢献したことを報告します。


※1:「第三者機関による実証実験」において、グラウンドの⾵下側が中⼼に広く表⾯温度が低下し、最⼤で20℃程度低下した場所が⾒られた。



育成年代である中⾼生の夏の屋外でのスポーツ練習環境を考える上で、川崎フロンターレアカデミーチームの練習場である「Anker フロンタウン生田」の暑熱対策に注⽬が集まっています。

川崎フロンターレアカデミーチームの練習拠点である「Anker フロンタウン生田」のグラウンドは、NTSの提案に基づき、人工芝の充填材に、環境に配慮した自然素材『ナチュレ』を採用。また、グラウンド地下には散水後や雨天時の水はけを考慮した「ドレーン」を設置し、その上でグラウンド周囲にNTSの開発製品である、気化熱によりグラウンド温度を下げる冷却ミスト装置『フィールド冷却細霧システム』を採用しました。

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暑熱対策で練習に集中

ナチュレ(環境に配慮した自然素材の人工芝充填材)によって日光の照り返しが抑制されたり、フィールド冷却細霧システム(ミスト)は毎日使用することで暑熱対策となり、選手のみならずスタッフも練習に集中できました。 実際に練習のたびに計測しているWBGT計では、温度が低めに出ていました。 また、ドレーンが採用されており水はけが良かったので、雨天時もグラウンド環境に左右されず練習することができました。天然芝に近い人工芝グラウンドのため、天然芝グラウンドだったクラブユース選手権でもプレイしやすかったです。

「川崎フロンターレ U-15生田」監督 久野智昭氏

『フィールド冷却細霧システム』開発背景

世界の年平均気温は年々上昇しており※2 、夏場は特に、高齢者や子どもはさることながら、屋外でスポーツを行うアスリートや競技者にも危険が及ぶ可能性があります。身体が直射日光にさらされることで体温が上昇し、集中力やパフォーマンスの低下に加え、熱中症や脱水症状のリスクを引き起こします。

このような状況を避けるため、当社はスポーツ環境における暑熱対策の研究を行う中、ミクロの霧(ミスト)でグラウンド全体の外気温度を冷却する装置『フィールド冷却細霧システム』を開発しました。プレイヤーのパフォーマンス向上※3に貢献する画期的な装置として注目を浴びています。
本装置は国土交通省の「NETIS(新技術情報提供システム)」に登録の製品です。また、2021年に「環境技術実証(ETV)事業気候変動対策技術領域」に選定され、第三者実証機関の実験により性能効果が実証されました。


※2:気象庁HP 2024年2月1日公表内容より
※3:練習時間の確保や練習強度の維持

『フィールド冷却細霧システム』製品概要

『フィールド冷却細霧システム』は、微細なミストを発生させて、グラウンドの暑熱環境を緩和する装置です。従来型の散水方式であるスプリンクラーとは異なり、微細なミストの気化熱によって、グラウンドの温度を下げます。練習中に作動させてもグラウンド表⾯をあまり濡らすことがないため、足元が滑ることはなく、競技への影響は少ないシステムです。ミストノズルにはゴム製のカバーを装着するため、プレイの邪魔をせず安全です。
従来型の散水方式に必要な⼤容量の受水槽や⼤型ポンプは不要。使用水量はサッカー場1⾯あたり毎分40~45ℓ程度であるため、ランニングコストの削減が可能です。フィールドの形態に合わせてミストの噴霧エリアを調整できます。

製品の3つの効果

ミスト蒸散による気化熱の発生で、グラウンド全体の外気温度を下げる
プレイヤーがミストに直接触れることで、体感温度を下げる
一部グラウンドに降下したミストが、グラウンド表面温度を下げる

製品の強み

プレイ性・安全性 ノズルカバーと固定盤の緩衝性と特殊な形状により、
プレイヤーの安全性とプレイ性を確保しました。
超微粒子噴霧 20~50ミクロンの超微粒子をムラなく噴霧するため、プレイヤーの体を濡らさず、
プレイに影響を与えません。
優れた冷却効果 地中に埋設された給水管から、低温の霧が直接⼤気中に噴射されるため、冷却効果が高く、
快適に暑熱ストレスを和らげます。
水量調節機能 フィールドの利用形態や気温に合わせ、噴霧量や噴霧エリアを
コントロール
※4
することができます。

※4制御方法に合わせた配管工事が必要です。
ローコスト設計 ⼤量の水を短時間で散水するスプリンクラーと異なり、受水槽や⼤型ポンプが不要なため、
建設費が⼤幅に削減されます。
ランニングコストの低減 本システムの使用水量は、サッカー場1⾯ で毎分45~50㍑程度です。
90分間継続して稼働させても、水量は約4.5tで散水方式の30%程度です。

環境省ETV事業で実証された『フィールド冷却細霧システム』の性能

環境省のETV事業において、夏※5に人工芝のサッカーグラウンドで第三者機関による実験を行い、温度低下効果※6と熱中症指数「WBGT※7」の低下が実証されました。


※5:雨天を除く
※6:外気温度とグラウンド及び人体に⾒立てたマネキンの表⾯温度の低下効果
※7:体と外気との熱のやりとり(熱収支)に与える影響が⼤きい「気温」、「湿度」、「日射・放射」、「⾵」の要素をもとに算出された指数のこと。

第三者機関による実証実験について(環境省環境技術実証(ETV)事業実証報告書から抜粋)

装置の稼働の有無で人工芝グラウンドの外気温度や熱中症指数「WBGT※7」などを測定
・試験実施場所:南山スポーツ公園陸上競技場(和歌山県日高郡日高川町)
ロングパイル人工芝のグラウンドを使用
・試験実施期間:2021年8月24日~26日
・天候条件:3日間とも曇り時々晴(降雨なし)
外気温度:27.4~31.3°C
日射強度:250~1,140W/m2
相対湿度:76~82%※8


※8:湿度が高めであるため、ミストが蒸発しづらく、グラウンドの外気温度よりも表⾯温度が低下する傾向にある。

●実証結果

天候や時間帯による変動はありましたが、ミストを噴霧することで外気温度、黒球温度、WBGT※7 、SET*※9が低下し、相対湿度がわずかに上昇しました。また、マネキンやグラウンドの表⾯温度の低下が、サーモグラフィカメラを用いて確認されました。

※9:人が静止した状態で感じる体感温度を表す場合に使われる指数のこと。


マネキンの表⾯温度(試験1日目11時頃)   グラウンドの表⾯温度(試験2日目11時45分頃)

マネキン 下肢※10を中⼼に表⾯温度が低下し、最⼤で5°C低下した箇所があった
グラウンド ⾵下側が中⼼に広く表⾯温度が低下し、最⼤で20°C程度低下した場所があった


※10:股関節から足のつま先までのこと。

●所見

『フィールド冷却細霧システム』の技術性能は、夏季のスポーツフィールドにおいて、プレイに影響を及ぼすことなく、下肢※10を中⼼にプレイヤーの体感温度を低下させることに効果的であり、快適なスポーツ環境が提供可能であると考えられる。また、試験を実施した3日間の中では最も相対湿度が低かった試験3日目においては、外気温度は実証する性能(0.5°C以上の低下)を満たした。より湿度の低い快晴の条件で試験を実施した場合には、より高い外気温度低減効果が⾒られる可能性がある。

『フィールド冷却細霧システム』導入実績

浦和学院高等学校サッカー場、早稲田⼤学東伏⾒アメリカンフットボール場、 Anker フロンタウン生田、稲城長峰ヴェルディフィールドサッカー場、 NICHIBUN SAKURA FIELD(日本文化⼤學総合グラウンド)、千曲市サッカー場、豊川高等学校総合グラウンド、松戸市運動公園陸上競技場(3種公認)、田辺スポーツパーク野球場、南山スポーツ公園陸上競技場(4種公認)、興南中学校・高等学校グラウンド、九州産業⼤学グラウンド、他(順不同)

「Anker フロンタウン生田」の次世代型グラウンド設備


『フィールド冷却細霧システム』を含む以下の設備が評価され、「Anker フロンタウン生田」が、令和5年度第39回都市公園等コンクールの材料・工法・施設部門において、一般社団法人日本公園緑地協会会長賞を受賞しました。(株式会社川崎フロンターレと連名で応募)

●暑さ対策

『フィールド冷却細霧システム』に加え、人工芝の充填(じゅうてん)材に、日光の照り返しを抑制する自然素材の充填(じゅうてん)材『ナチュレ』を採用。練習前の散水も相乗効果に。


●⼤雨後の早期回復

「高速排水」を目的として、透水性アスファルト舗装直下の砕石層に暗渠排水管を設置。結果、⼤雨でなければ降雨中も利用可能で、降雨後は使用できないことはほとんどない。

●マイクロプラスチックの流出問題

暗渠排水管による高速排水の実現により、表⾯排水を受ける側溝が不必要となり、代わりにグラウンドの四方を暗渠排水でつなぎ、桝に集水できるシステムを実現したことにより、マイクロプラスチックの流出はほぼ無くなることが確認できている。


スポーツ環境の持続可能性を探求

全天候の人工芝舗装は、維持管理、運営の⾯で他舗装よりも優位性が高く、本設計においても当初より導入を検討していました。当初、事業者様から設計で求められた要素は、「暑さ対策」、「⼤雨後の早期回復」「マイクロプラスチックの流出抑制」でした。これらを解決することでスポーツ環境の持続可能性を実現することを目標として設計に取り組みました。
竣工して1年程経過し、設計段階で想定した「スポーツ環境の持続可能性を意識した設計」については、概ね実現できたと考えており、“どのような状況であってもスポーツが楽しめるフィールド“について、今後も探求することが重要と考えています。

設計士 ULD株式会社 代表取締役 坂本圭氏